ある森の一角で野営をする夜、薪を囲む仲間達のところへ、逆さ青髪が帰って来る。青髪、皆の輪に加わるなり叫ぶ。

「みんな、ハッスルダンスを知ってるか!?」
「何言ってるの? 全員踊れるじゃない」
「いきなりどうなさったんですか」

 ミレーユが答え、チャモロが問う。他の仲間達は彼に心配の眼差しを向ける。しかし、青髪はそれを聞いているのかいないのか、小さな本を取り出して次のように叫ぶ。

「説明しよう! ハッスルダンスとは……」


  ・ハッスルダンス
  効果:ハッスルしてダンスを踊り、仲間を元気にさせる。
  有効範囲:仲間全員(馬車内の仲間含む)
  仕様時期:戦闘中
  消費MP:0
  スーパースター★×6で習得
  (エニ○クス『ドラゴンクエストⅥ幻の大地 公式ガイドブック下巻●知識編』より引用、一部抜粋)

「フッ、そんなの今更だぜ」
「馬鹿野郎!」

 主人公、いきなりテリーを殴る。テリー、五メートルほど吹っ飛ばされるも、頬を押さえて起き上がり抗議する。

「何しやがる!」
「こっちの台詞だ! 今更だとか抜かしてる、お前のハッスルダンスが一番問題なんだ!」

 ――何だと?

 全員の視線が青髪に集中する。彼は好機とばかりに本を放り投げて声を張り上げる。

「そうだ! 俺は、このパーティーに今とてもやばい問題があると考えている! その問題が、ハッスルダンスだ!」
「えー? でも誰が踊っても回復してるじゃん」

 バーバラが唇を尖らせる。しかし青髪は首を横に振る。

「そうじゃない! 最近個人によって回復の度合いが違うんだ」
「違わないと思うけど」
「たとえば」

 青髪は金髪の美女と小柄な魔法少女を順に指さす。

「ミレーユのハッスルダンスは優雅でとてもいい。バーバラのも元気が出る。すごく元気が出る。まるでセーラやターニアが『頑張って、お兄ちゃん!』と言ってくれているかのように」
「頭にホイミしましょうか?」

 そう言ってアモスが立ち上がり、ツンツンに立てられた髪に手を翳そうとする。しかし、青髪は後ずさり、逞しい彼に向って叫ぶ。

「だがアモス! お前のは違う!」
「ええ、何がですか!?」
「お前最近ハッスルダンスの度に変な衣装着るだろ!」
「変な衣装なんかじゃありません!」

 アモスは握り拳を作って、

「あの衣装は昔、モンスターに尻を噛まれて元気がない時に、神様が夢の中で見せて下さった、最高に元気が出る踊りの衣装なんです!」

 一同は彼の衣装を思い出す。そう言えばビキニを着て、腰と頭に妙なもさもさしたものをつけて孔雀みたいにしてたなあ、と。

「知るかそんなの! 露出が高いのはいいけどお前男だから全っ然嬉しくねえし、やたらテンション高くて逆に引くんだよ」
「ええ!? 私の渾身のサンバに何てことを!」

 ――ハッスルダンスじゃなかったのか!?

 全員、衝撃の事実に愕然とする。
 次に、青髪はゲントの神童を見る。

「チャモロ、お前もだ。お前は扇を使って踊るし盛り上げようって気持ちは伝わってくるけど、何か違う!」

 その言葉に一同、そう言われてみればとチャモロのハッスルダンスを思い出す。彼の動きは一応ハッスルしているのだが、所作がピオリム三倍のキラーマシンのようで、しかも何故か扇をひらひらとするのではなくくねくねと平面的に動かすのである。
 チャモロは平然と返す。

「あれはいずこかの次元に存在する幻の世界で、『ノー』と呼ばれる神へ捧げる幻の踊りの動きを取り入れたのです」
「何だそれ! チャモロお前すげえな!」
「すげえけどあれはあまり盛り上がらない! それからハッサン、お前のも!」

 チャモロに賛辞を送っていたお人好しの武闘家は、俺も!? と自身を指さす。青髪は頷いて見せる。

「そうだ。お前のはとにかく、うるさい! 妙な掛け声ばっかり入れやがって」
「いいじゃねえか、声出すと元気出るぜ!」
「『そーれ、ハッスルハッスル!』だけなら分かる。けどお前はその後に何て言う?」
「あー、たとえば……『テリーの! ちょっといいとこ見てみたーい! そーれ、イッキイッキイッキ』」
「意味分かんねえんだよ! で、テリー」
「な、なんだよ」

 テリーはどんな罵詈雑言を浴びせられるのかと、微妙に緊張した面持ちで身構える。

「お前のは全体的に問題ないけど、とにかく癇に障る。踊るな」

 しかし、かけられたのはそんな冷たい言葉だった。テリーは思わず立ち上がる。

「理不尽だ!!」
「そこで、俺はみんなに踊ってもらいたい理想のモデルを見つけて来た!」

 聞け! と喚くテリーを無視して、青髪は袋からまがまがしい鏡を取り出す。ミレーユが不思議そうにそれを眺める。

「それはなあに?」
「一週間前にカルベローナで作ってもらった、幻惑のカガミだ」
「何それ呪われそう」
「頑張って一日で殺した、悪魔のカガミ百体分のモシャスエネルギーが詰まってるだけだから大丈夫」
「全く大丈夫そうではありませんね」

 チャモロが呪い払いの支度をしようと杖を取った瞬間、幻惑のカガミからぼわんと白い煙が立ち上った。

 呆気に取られる一同の前に、白い煙の中から人影が現れる。
 まず目に飛び込むのは、ファーラット二匹分はある乳房である。驚異的なバストサイズの、赤毛をツインテールに結った勝気そうな美少女だ。美少女は踊っている。

「そーれ、ハッスルハッスル!」
「異世界で会った港町のアイドル、ゼシカちゃんの踊りをコピーしてきた。みんなこう踊れるようになるように!」
「あまりバーバラの踊るハッスルダンスと変わらないと思うんだけど」

 ミレーユが小首を傾げる。その隣でバーバラが手を挙げて訊ねる。

「はーい! 特に、どこを直せばいいの?」
「良い質問だ。ゼシカちゃんの元気のポイントは……これだ!」

 青髪は剣で、踊り続けるゼシカのある一点を指す。

「このダイナマイトなおっぱい! この動きがすごいだろ!? もうゆっさゆっさっていうかたゆんたゆんっていうかぼいんぼいんって揺れる感じがさ、テンションが上がるどころか男としてテンションバーンにならざるを得ないよな特にこ――」



 その瞬間、魔法都市カルベローナの民はざわめいた。

「今、世界が揺れた……」
「違う、マダンテじゃ。バーバラ様がマダンテをお使いになったに違いない」
「ああバーバラ様……それほどの過酷な戦いを強いられているのですね」
「皆、祈りましょう。バーバラ様に神のご加護を」

 彼らは大魔女の無事を祈る。その成果あってか、幻惑のカガミはものの見事に、塵一つ残さずこの世から消え去ったと言う。





(後書き)
第三回DQ深夜の真剣物書き60分一本勝負(通称ワンライ)で参加して書きました。お題は「ハッスルダンス」を選択。

Ⅵ主の頭がパアンですみません。総じてテンション高くてすみません。たまに自分の書くギャグのテンションに、皆様がついていけているのかとても心配になります。でももう結構書いちゃったけど。

チャモロの言う能は色々間違っているし、バーバラのバストサイズはゼシカとまではいかないまでも結構ある方だと思いますが、テリーをいじれて良かったです。可愛いですよね、テリー。不憫可愛い。
ところでこのⅥパーティーは先日の変態クリフト同様、どのあたりの次元にいるのでしょうか? 普段うちで暴れている雷馬鹿なら「お前ら面白いな! もっといろんなの作ろうぜ! そーれ、ハッスルハッスル!」と言う気がします。
ワンライでは様々な方の目に触れるので、うちの主人公面子を使うのに気が引けます。でももうサンドラ使いましたけど。そしてⅦ、Ⅷ、Ⅸ主なら使う気もします。気まぐれですね!

話はちょっと違いますが、このワンライ、これまで全て同盟で盟主様こと朝来さんが用意して下さっている投稿フォームを使って、ここより先に作品を投下しております。ついったーアカウントを持ってる方ならどなたでも参加できますので、これをご覧の皆さまもぜひ、書けそうなお題が来た時なぞに参加なさってみてはいかがでしょうか? とても楽しいものです。

では、ここまでおつきあい下さりありがとうございました! 


20140720