魔の胎洞と呼ばれる洞窟がある。これは闇の世界でたまに見られるもので、洞窟が魔物を産むのである。通常なら闇の領域外では見られないのだが、極稀に姿を現すことがある。
 こんな時、光の神はある者達に駆除を任せる。











 厄介な僧侶系の魔物はさっさと倒す。攻撃の複雑なものは用心してかかる。当たり前である。だが数が多すぎてどうしようもない時は、とにかく速く敵を戦闘不能にし、目的地に突き進むしかない。
 アレフはエビルプリーストが倒れるのを確認すると、周囲に銀の軌跡を描きながら疾走する。
 要は手足をどうにかすればいいのだが、それだけでは済まない奴もいる。そこは漏らさず、始末しておかなければならない。
 行く手に化けキノコを数体発見する。キノコ類は厄介だという仲間の言葉を思い出し、大きく薙いで同時に仕留める。
 この任についてから自分の世界では見ない魔物を多く目にする。能力の分からないものが多いから、外見を覚えておいて仲間にその詳細を尋ね、それを記憶するのが大変だ。だがそうしないと気が済まない性分なので、苦ではない。
 行く手を遮るネクロバルサを、正面から一刀のもとに断つ。先祖代々伝わる「気」を利用した技である。先祖の伴侶が編み出したというが、一度会って手合わせ願いたいものだ。
 どんな魔物を前にしても、アレフの頭には己の技術を磨くことしかない。一切の妥協を許さない向上心と血筋への誇りが、その剣を神業と称されるまでに仕立てあげる。
 悲鳴も断末魔も鉄の臭いも、気に障らない。全ては修業である。雑念など振り払い、ただ不死鳥の剣に心酔すればいい。
 男はマンドリルの死体で血糊を拭い、次の課題へと取りかかる。





 軽い掛け声と共に巨体が飛んだ。そこに強烈な衝撃波が押し寄せ、トロルキングは木っ端微塵に吹き飛んだ。
 散って落ちる肉塊など気にも留めず、青い男は古の名剣を振るい次々と魔物をほふる。二刀流の方が効率がいいのかもしれないが、一本の方が好きだ。そういうのは親類の親友に任せておくに限る。
 彼の通った後には死体が積もる。圧倒的な力で捩じ伏せられ、彼の前では魔物の大軍も寄せては引くだけの波のようだった。
「……足りねえな」
 終いには、魔物が怯えて引く。遠巻きに見ている彼らを無為に殺すことはしない。だが、アレンはぼそりとそう呟いた。
 生まれながら強靭な肉体を持つ彼は、せっかくの魔力も呪文として使えず、拳に纏い更なる刃とする。城の学者は魔力と気功の関係は未だ詳細分からず云々などと言うが、そんなことはどうでもいい。使い方は体が分かっている。
 誰かと刃を交えることで、血沸き肉踊る。強い相手なら尚更高揚する。この為に生きているのだと実感する。戦闘は彼のバイブルでアイデンティティーだった。
 やがて、重々しい足音が腹の底を揺さぶる。男の無愛想な顔がそちらを睨み、それから眉を上げた。思わず口元が弛んでしまう。
 戦神の愛し子は、獰猛に歯を剥き出した。





「えー、数多すぎねえ?」
 優男は困ったように溜め息を吐く。手にしたルビスの剣に付着した血を拭おうとするも、新たな魔物が飛びかかってきたため慌てて応戦する。
「文句言ってないで手を動かしなさい」
 彼に背を向けたまま、よく似た衣装の少女が呪を詠唱する。彼女の周りで爆発が起こる。
「何でこんなに出てくるんだよ?」
「それが特徴でしょう」
「前はこんなに出なかった気がする」
「喉元過ぎればじゃないの?」
 彼と言葉を交わしながらも、少女は確実に敵を仕留めていく。迷いのない太刀筋は機械のよう、彼女の優秀さの現れだ。
 今日は調子がいいようだ。だが、いつ面倒になることやら。
 サタルは彼女の様子に気を配りながら、自分も剣を操る。
「アベルみたいに、魔物を和やかにさせられたらなあ」
「そんなの必要ないわ。無駄な情が湧くだけよ」
 彼は思わず少女を見る。彼女は相変わらず世界の滅亡を見据えたような顔つきだった。
「優しいね」
「面倒なだけ」
 サンドラは吐き捨てて、突っ込んできた大魔神を軽いステップで交わした。その頬に呪いのつるぎがかする。汗と血が飛び散った。
 さすがに疲れてきた。いい加減休みたい。少女の攻撃を避ける足が縺れる。ブラッドハンドが足首を掴んでいた。剣を突き立てる。顔を上げれば獣の真っ赤な口腔。牙が黄ばんでいる、とどうでもいいことを思う。
 刹那、腹部に衝撃が走った。掬い上げられ、魔物達が視界の下に遠くなる。広い楕円の空間、細く延びる五本の道、そこにひしめく魔物達が、光の海に飲まれた。
 少女は咄嗟に目を瞑り耳を塞ぐ。宙にいるのに、音波で体が震えた。目の裏が黄色く、赤く染まる。見ていないのに地獄が映った気がした。
「ごめん、大丈夫?」
 足が地についた。目を開ければ、秀麗な顔だちが覗き込んでいる。その背景のどこにも、魔物の姿はない。しかし漂う生臭さと皮膚のベタつきが、彼のやったことを濃厚に物語っていた。
 最上級爆発呪文すら凌駕する超爆発。魔法であることを疑ってしまうほどの奇跡の業。
「上手くなっただろ? サークレットありでも、これくらいならできるようになったんだ」
 誇らしげに笑って見せる彼。本当は嬉しくも何ともないなんて分かっている。
 戦いを不得手だと言う彼が仲間内で最強であると、サンドラは認識している。仲間の誰よりも付き合いが長いからこそ知っていた。
 それでも、昔はもっと。
「まだまだよ」
 郷愁を抑えて、でも礼は言っておくわと続けると彼は嬉しそうに笑った。
「素直じゃないなあ」
「手酷くされた方が嬉しいでしょ?」
「俺のどの辺りを見てそう思ったんだい?」
 死臭の中でも軽口を叩き合う。
 彼も彼女も、命を奪うことには馴れきっている。そこに悲しみはないが、虚しい。この感情はいつの頃か影法師のようにつきまとい、戦闘の度姿を濃くするのである。
「しばらく、俺がやるから」
「……少しでいい」





「ソロ大丈夫!?」
 ふわふわ髪の少女は体に付着した血液を拭いもせず、同様の禍々しい剣を振りながら駆け寄った。青年は肩にかかったまっすぐな髪を払い、にやりと笑う。
「山姥」
「失礼! 心配してやってんのにそれとか失礼すぎでしょ!?」
「相棒の出刃包丁はどうした」
「そんなもん料理以外で使ったことないよ!」
「嘘こけ、この間――」
「屈んで!」
 鋭さを増した声に体が従った。反射的に屈み込んだ彼の頭上を、女の白刃が地面と並行に薙ぐ。青年の背後に忍び寄っていたシュプリンガーは仰け反ってかわしたが、屈みながら体を回転させたソロの足払いによって体勢を崩した。二本の天空の剣が敵の鎧を貫く。
「危ねえだろ」
 得物を引き抜きながらソロが文句を言うも、ソフィアは頬を膨らませ明後日を向く。
「ちゃんと屈んでって言ったもん。後ろに気付いてないソロが悪いもーん」
 舌打ちして言葉を返そうとする。しかし耳に唸り声が届き、二人は跳ねられたようにそちらを向いた。
 三叉路の二本が魔物で埋まってしまっている。残る一本にもわらわらと新手が来ていた。
「キリないなあ」
 全滅させるには骨が折れそう、とソフィアは肩を回す。剣を構え直し周囲を見回すソロが鼻を鳴らす。
「アホかてめえ、まともにやりあってどーすんだよ。先に進むのが優先だろうが」
「でも放っといたら危ないじゃない。やろうよ」
 そう言う彼女は、至極当然といった顔つきをしている。ソロは溜め息を吐いた。
 二人は似通った存在である。髪や目の色だけでなく、魔物への強い憎悪を共通して抱いている。その一方で、魔物が悪い奴ばかりではないという認識も同様に持っている。
 しかし二人には徹底して違う点があった。そこが、ソロは恐ろしい。
「先にこっちがやられちまうわ。もとを絶ってからにしろ」
 ソロは彼女を引っ張って、比較的魔物の少ない進路へ向かう。えー! とかやだー! などと駄々を捏ねているが、もう少し魔物が増えれば目の色が変わるだろう。
「悪いのは! みんな退治!」
 俺がよく見ててやらねえと。喚くソフィアを前方へと放り投げながら、ソロは気を引き締めた。





 プリズニャンが喉を鳴らしながら男の足に擦りつく。屈んで顎を掻いてやる彼の眼差しは、慈しみに満ちている。
 男の周りには魔物が壁を作っている。しかし殺気だった気配は感じられず、心なしか和やかな空気が漂っていた。
 これは、男の持つ能力のせいだった。彼は天性の魔物使いなのである。
「君達みたいな子が多かったらいいんだけどね」
 彼は呟いてから、はたと顎に手をあてる。
「いや……それは駄目か。君達が滅びてしまう」
 その一風変わった力のせいか、彼は魔物を殺すことを嫌う。魔物を駆除すべきものと考えられないのである。
「共生できたらなあ」
 彼の漏らす独り言を魔物達はじっと聞いている。彼らをぐるりと見渡して、彼は苦笑する。
「所詮、ユートピアか」
 そして、腰を上げた。
「ごめんね、もう行かなくちゃなんだ。悪いんだけど僕は、君達のこの家を壊さなくちゃならない」
 許してくれとは言えない。ここを壊さなければ、人と魔物とのいさかいは余計酷くなる。
 この言葉を聞いても、彼らは男を襲おうとはしなかった。凝視する瞳が責めてこないのが、かえって辛い。
「外へ行っておくれ。そうでなければ、君達の仲間と戦うことになる」
 じゃあね、と手を振って男は歩き出した。
 今彼は十二人の仲間と、この洞窟を壊す任務にかかっている。構造はよく分かっていないのだが九つ入り口があったため、手分けして探索して先に母胎を見つけた者が破壊することにしていた。
 彼らのためにも早く進まなければならない。恐らく自分が一番遅いだろう。
 道はさほど複雑ではないが、長く深い。加えて出現する魔物の数が半端じゃない。先程の者達のように敵意を抱かないでくれる者の方が少ないから、なかなか険しい道のりになるだろう。
 行き止まりで穴を見つけたので潜り込んでみる。中は広くなっており、これまでより闇が濃い。用心しながら足を踏み入れると、早速何かが飛んできた。
 ――やっぱりそうなるよね。
 かわして目を凝らす。毒々しく膨らんだ体が見えた。今のはキャノンキングのキャノン砲だったらしい。
 他にも少なくともマッドファルコン、ブラッドアーゴン、スネークロードなどの姿が確認できた。
 面倒な顔触れだ。しかし退路は――
 その時、上から何かが降ってきた。後ろに後ずさって杖を構えるも、その正体を見て息を飲む。
 先程のプリズニャンだった。
「ついて来たのか!?」
 嬉しいけど君には荷が重い、そう言おうとしたところに更に上から降ってきた。名前を知らない平たいスライム系に、筋骨隆々とした爪装備の怪人系である。
 彼らが暗がりに潜む敵に襲いかかるのと入れ替わりに、プリズニャンが足元に寄る。にゃにゃにゃと訴えかけるのを聞いて、男は目を見開いた。
「母胎はこの先じゃないのか! 僕を案内してくれるのかい?」
 猫は頷く。それから天井へ空いた穴へと飛び上がった。
 ナイトリッチが斬りかかってきた。受け止めて剣を流し首もとに杖を叩きつける。横に吹き飛んだ。
「二人とも上に!」
 男が叫ぶと、戦っていたスライム系と怪人系は従った。彼が穴へ戻った直後、闇を旋風が蹂躙する。前衛の魔物が巻き込まれるのを確認して、男は上の階へと戻る。
 そこには、先程出会った魔物達が待っていた。
「君達、ついてきてくれたのか」
 それぞれが頷き、口々に彼を最奥まで連れていくこと、ついていきたいことを言う。
 男は困ったような顔で笑い、首を傾けた。
「嬉しいけど……どうしよう。僕と一緒に、違う世界に行くかい?」
 彼らは躊躇いもなく賛同した。男は下をちらりと見る。
「じゃあ、まずは僕を連れていってくれないか? 僕はアベル。これからよろしくね」





 歓声が木霊する。声の主は倒れいくトロルキングの背を駆け、大きく跳躍する。青い髪が風になびく。宙を舞う間に二匹リザードフライが来る。剣が疾風のごとく彼らを切断し、前方のドラゴン・ウーの腹へと飛び込んだ。勢いのついた体は弾丸となり、巨大な下腹部に穴を開ける。血飛沫と共に飛び出したレックは着地して、口内の血を吐き出した。
 魔物の群れが飛びかかる。すかさず円を描いた剣から真空が迸る。返り血を浴びる前に軽業師よろしく跳ねて去る。
 ぴょんぴょん跳ねる彼の行く手で、面白いように派手な血飛沫があがる。軽業師の残虐なショーに、観客から上がるのは断末魔と怒声。客の一人が拍手しようと手を開く。その真ん中にスターが飛び込んだ。
「ライディン!!」
 野太い悲鳴。トロルキング二体目が倒れ、レックはひらりと着地する。
「あっぶね、サンドイッチされるとこだった」
 頭を掻く彼は、悪戯を失敗した子供のように笑っている。
 戦いにはスリルが伴う。それが彼に興奮と歓喜を与える。危ないからとおどおどしていては勿体ない。
 仲間のある男は魔物を倒すことをひどく悲しがるが、レックにそんな感情はさほどない。邪心を持つ闇のものは葬らねばならぬ。何を躊躇う必要がある?
 青年はなおもアクロバティックに飛び回る。その大胆な動きに、魔物達は翻弄されながらも隙を狙おうと飛びかかる。
「よっしゃ!! どんどん来いよッ!!!」
 愉快そうに吼え、青年は剣を掲げた。





 深緑の風が、魔物の間を吹き抜ける。鉄と甘い水の香りをまとった風は、身軽に最奥を目指す。
 ――大分奥まで来たけど、そろそろかな?
 風の正体である少年は、魔物だけでなく風景もよく観察しながら進む。彼の体に目立った傷はない。纏う高レベルの真空派が、魔物達を寄せ付けないのだ。
 生かす戦いとは難しいとアルスは思う。これまで何百と魔物を葬ってしまうほどに戦ってきたが、未だにうまくできない。
 彼の魔物への思いは一言では表せない。怒り、憐れみ、同情、共感、憎しみ、愛しさ、エトセトラ。彼らの様々な面を見てしまったから、沸き上がる思いも様々だった。
 しかし幸いにして、筋の通らないものに耐えるのは得意になってしまった。
 少年はとにかく駆ける。自分が早く過ぎれば周囲の傷は深刻にならずに済む。早く、少しでも早く。
「……え!?」
 やがて見えてきた光景に幼い顔が驚きに染まる。
 広い空間に出た。天井は高く、遥か上方から蒼い光が射し込んでいる。清らかな日差しに照らされるのは、見上げれば首が痛くなるほど大きな――
「……僕一人じゃキツいよ、これ」
 秀才を取り囲んだ魔物達が、閧の声を上げた。





 もう何度目か分からない黒い稲妻が迸る。エイトは額の汗を拭う間もなく、焼けた地を蹴った。
 魔物の死体を飛び越える。感傷に浸っている暇はない。戦いでは感情は切り捨てる。動きと思考が鈍ってはいけない、全身を刃にして、守るべきものを守らねばならない。
 まあ今守るべき人は連れていないけど。意識が大切な人へと向かないよう、槍と一体化することにだけ集中する。槍は複数、広範囲を攻撃しやすいから助かる。昔から愛用している得物だ。
 エイトは派手な戦い方はしない。消費の激しい技は避け、なるべく最低限に抑える。今のような長期戦になりそうな時ほど、節約を徹底していた。
 槍が舞う度に魔物が飛ぶ。堅実な攻撃は地味ではあるものの、無駄がないため着実に先へ進む。
 格闘の技もなかなか役に立つ。現に彼は真空派や爆裂拳の応用で、周囲を圧倒していた。本当は炎も使ってみたいのだが、竜神の力はコントロールが難しい。一人の時は避けた方がいい。
 効率良く進む彼が目的へ辿り着くまで、あと少し。





 灼熱の炎から少女が飛び出してきた。赤き光の衣を纏う彼女は皮膚が爛れているにも関わらず、涼しげな顔で驚愕する敵をぶったぎった。それを突き抜けて更に猛進し、敵の刃をその身に受けながらも剣を振るう。
 その様は菩薩の顔をした修羅、という言い方が適切だろうか。
「ノイン、無理は駄目ですよ」
 愛らしい修羅を癒しの光が包む。追随する小柄な美少年のものだった。
「無理はしてないですよ、ナイン」
「無理してます。痛みを感じないから分からないだけです」
 ノインは肉体の制御に秀でており、特に感覚の完全遮断という妙な能力があった。これは彼女が地上に落ちたのがきっかけとなってできたものだが、早い話が諸刃の剣である。
 戦いの時、痛みを感じずに動けるのは強みだ。しかし、痛覚は体の危険信号である。彼女はいつもそれをまるっきり無視してしまうため、無茶をしやすいのだった。
「師匠は」
「怒るでしょう」
「分かってるなら」
「でも便利です」
 ナインは肩を竦める。
 彼と彼女は言葉に出さなくとも互いの言いたいことが大体分かってしまう。だが、考えはやはり別個体だから一致させられない。
 無茶苦茶な快進撃を続けるノインを、ナインはサポートする。彼も戦っていたら、彼女の四肢があっという間になくなってしまうからだ。
 回復応援補助、抜かりなくこなす少年の鼻がぴくりと動く。
「ノイン」
「見つけました?」
「ええ」
 言わずとも少女は理解する。剣が星屑の光を放ち始めた。
「まずは」
 彼が指差した方に、ギガスラッシュが放たれた。壁が大きく穿たれ、驚いた魔物達が散り散りになる。
 少年が道を指し、少女が道を拓く。途中戦っていた魔物が逃げたり巻き添えを喰らったりするが、二人は気に留めない。彼らにとって、全ては「そういうもの」なのだ。
 やがて、彼らはある空間に行き着く。蒼が射し込むそこには、目当てのものがいた。
「ここにアルスさんが」
「呼んできます。他の皆さんを」
「呼びます」
 促す少女に少年は頷く。彼の言葉が光となって流れ出て、詠唱が魔方陣を描き始める。
 ナインはノインと反対に、感覚に秀でている。人には感じられない繊細なものを頼りに、対象物を探知し分析する。加えて魔術にも長けていた。
「扉よ、開け」
 精霊言語に呼応して、少年を取り巻く九つの陣は光の渦に変わる。漆黒の壁を一際の青が照らした。









「あーみんなおっつかれー!!」
「どうにか帰ってこれたな!」
「なあ、いつもより魔物多くなかった?」
「んなことねーよ」
「いつもあんなもんじゃありませんでした?」
「だから言ってるでしょ」
「アベル、その魔物達は」
「新しい仲間だよ」
「エルヘブンの血は素晴らしいですね」
「いや、アベルさん自身の影響もあるのかもしれません」
「わースライムエンペラーだ! メタルキングもいるし……大変なんだよ? この種類の魔物懐かせるの」
「ねえ、夕飯できてるって!」

 十二人の歓声が響いた。



 光に導かれた彼らは、共に戦う。世界、種族、思考、どれもそれぞれ違う。違うからこそ、強くなれる。
 彼らは今日も、時空を越えて戦い続ける。








20140525