※台本形式です。苦手な方はお戻りください。

 

 

 

ナイン「皆様おはようございます、もしくはこんにちはこんばんは。星空の守り人ことナビゲーター、ナインです。こちらはエデンの戦士ことサポーターのアルスさんです」

アルス「こ、こんにちは、アルスです……ねえナイン」

ナイン「何でしょうか」

アルス「その何とかのって何なの? ていうか、誰に向かって喋ってるの?」

ナイン「よくぞ聞いてくださいました。実はですね、今回僕はこの止まり木の世界の紹介ムービーを作ろうと思うのです。これは、そのための撮影です」

アルス「紹介むーびー? さつえい? えーと……何から聞いたらいいのか分からないんだけど」

ナイン「僕達の今いる止まり木の世界は、僕ら魔王に勝った者が呼び寄せられ、神々の命ずる任務を遂行するための拠点とするための場所です。ですが、ここに来るのは僕達だけではありません。お客様がいらっしゃったり、新しくここへ働きにくる人がやって来る時もそのうち訪れるはず。そういった時に、言葉で説明するより目で見る方が、この世界のことを分かりやすいかと思いまして」

アルス「うんうん。で、その目で見るためのものは?」

ナイン「そこです」

アルス「そこ……? 何もないんだけど」

ナイン「見えぬけれどもあるのです。タカの目の技術を応用しました、その名も『タカさんが見てる』! 風ですから、誰にも見ることはできません。撮った記憶は開発者である僕だけにしか見えませんが、物質に結びつければ、僕以外の人でも触れるだけで記憶を見ることが可能なのです」

アルス「い、色々省きすぎて理屈はよく分からないけど、凄いね……!」

ナイン「細かい話は後ほど。とにかく、そんなわけで僕達はこの世界を紹介して回らなければなりません」

アルス「う、うんそっか……僕は何をすればいいの?」

ナイン「僕の紹介の補足や、諸々の手伝いをしていただきたいのです。よろしいでしょうか?」

アルス「分かったよ」

アルス(さっき暇か聞かれて、暇って答えたら宿前に連れて来られていきなりこれだもんなあ……でも、まともなことやるみたいだしいいか)

ナイン「では早速参りましょう! 未知の世界を紹介します、『スライムでも分かる! ウチんとこの歩き方』っ!」

アルス(なにこのタイトルコール)

 

 

 

 

 

ナイン「まず紹介しますのは、僕達が寝泊まりに使っておりますこちら、『憩いの宿屋』です。任務の前やら後やらに集まって仕事の話をしたり、仕事とは全く関係ない話をしたり、ご飯を食べたり、遊んだり、色々な用途に使います」

アルス「本当に便利だよねえ。結構くつろげるし、いろんなものが置いてあるし、今じゃ第二の故郷みたいだよ」

ナイン「さて、アルスさん。この宿で欠かせない存在と言ったら何でしょう?」

アルス「え? 欠かせない……魔物達じゃないの?」

ナイン「その通り! さすがアルスさんです。仰る通り、この宿は魔物達によって回っております。料理に掃除、その他諸々のいわゆる家事という家事を、何でもやってくれているのです」

アルス「もちろん仕事がない時とか、僕達もなるべくやるようにしてるよ? でも任務でへとへとな時とか、本当にありがたいよねえ」

ナイン「全くです。彼らはこの世界に定住していまして、僕達同様この宿に暮らしている者もいれば、外の方が好みだと外に家を持つ者もいます。それでは早速、魔物達の様子を見てみましょうか」

アルス「この時間だから、みんな食事の片づけか適当にのんびりやってるんじゃないかなあ?」

ナイン「そうですね。というわけで厨房に……あっいました! 食器を洗ってくれているようです」

アルス「うわあ、悪いなあ。今日は魔物達だけで洗ってくれてるみたい」

ナイン「人間の皆さんは、今日は任務やら別のことをやってらっしゃいますからね。今ここで洗い物をしてるのは、さまようよろいのサイモン、スライムナイトのピエール、ミニデーモンのミニモン、くさった死体のエテポンゲ、ホイミスライムのホイミン、あとコロちゃん達です」

アルス「よく働いてる……あれ?」

エテポンゲ「はあん、ウチもう疲れたわあん」

サイモン「おい、さぼるな。さっさと片付けろ」

エテポンゲ「そんなこと言ったってェ、疲れたモンは疲れたのよぉ」

ナイン「アルスさん。前から気になっていたのですが、エテポンゲさんは何であんな喋り方なんでしょう?」

アルス「それは僕が聞きたいよ。僕の世界にいるエテポンゲさんもああだったんだ……まあ、あの人の場合、いまだに人間なのかくさった死体なのかよく分からないんだけど」

ナイン「きっとポピュラーな名前なのでしょう。「アルス」や「ナイン」がたくさんいるのと一緒です……おや、何やら揉めているようですね」

ピエール「いい加減にしろお前達! スポンジの泡で戦隊ごっこをするんじゃない!」

コロファ「いいじゃねーか。すっげー雰囲気出るし楽しいぞ」

コロプリ「良い匂いですし」

コロマジ「もうちょっとで終わるし、大丈夫だいじょーぶ」

コロヒロ「喰らえっコロ戦隊必殺! あわあわ光線!」

ミニモン「ギャーッ」

ピエール「こらーっお前らー!」

ナイン「楽しそうですね」

アルス「止めなくていいの?」

ナイン「貯金には少々余裕があるようですので、家具の三割が損壊するまで行ったら、止めます」

アルス「そういう問題なの?」

アベル「やあ、みんな元気にやってるかい?」

魔物達「あっ……アベルさん!!!」

ナイン「おっと、ここでアベルさんの登場です!」

アルス「すごい……あんなに揉めていた魔物達が、嘘みたいに大人しくなった……!」

ナイン「さすがアベルさん、伝説の魔物使いの名は伊達ではないということですね」

アルス「ここにいる魔物達は、みんなアベルさんについて来たようなものだからね。すごく好かれてるなあ」

アベル「何をしてたんだい? こんなに泡だらけにして」

コロファ「えっと……」

コロマジ「泡遊びで、盛り上がり過ぎちゃって……」

コロヒロ「ごめんなさい!!」

アベル「うん。遊びたいのは分かるけど、誰かが滑ったら危ないから、ちゃんと掃除してね」

コロ戦隊「はーい」

ナイン「さて、じゃあアルスさん。ひと段落したところで、インタビューに行きましょう」

アルス「……へ?」

ナイン「アベルさん」

アベル「やあ、どうかした?」

ナイン「実はかくかくしかじかで」

アベル「なるほど、じゃあ答えればいいわけだね」

ナイン「はい、よろしくお願いします。じゃあ早速お伺いします。この宿にはどのくらいの魔物達がいるのでしょうか?」

アベル「えーっと、ざっと五十くらいかな。たまに野生の子もまざってくるから分からなくなっちゃうけど」

ナイン「皆さんのご出身は?」

アベル「バラバラだよ。もとからこの世界にいた子もいる。違う世界から来た子もいる」

アルス「大体連れてくるのはアベルだよね。僕なんてさっぱり」

アベル「はは、一長一短だよ」

ナイン「どうしてこの宿の手伝いをしてくれてるのでしょうか?」

アベル「うーん。僕たちがいることで彼らのテリトリーが守られてるからじゃないかな。普段僕たちがいれば敵意のある者は退けるし、いなくても僕らを守る神の加護が、彼らにもかけられる。代わりに彼らは僕らの身の回りのことを手伝ってくれる。どうもギブアンドテイクな仕組みになってるみたいだね」

アルス「アベルがモンスターマスターの契りを交わしてるからっていうのも大きいよね」

ナイン「主に何を手伝ってくれるんでしょうか?」

アベル「主に僕たちの個室以外の宿の掃除、料理、それから手伝いとは違うけど、育てた野菜を分けてくれるのはありがたいよね」

アルス「かなりありがたいね。僕たちが普段食べてるものって、野生にはない野菜も多いから」

アベル「僕たちも任務がない時は料理や掃除を手伝うようにしてるけど、本当にありがたいと思うよ」

アルス「魔物のみんながいてくれないと僕たちやっていけないよね」

アベル「うん、みんな本当にいい子達だよ」

ナイン「アベルさん、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

ナイン「さて、次にやって来たのはこちらです」

アルス「洗濯場だね。宿の外、屋根だけになってる場所に洗濯場があるんだ」

ナイン「あ、ちょうど図ったようないいタイミングで人がいます。お話を伺ってみましょう」

エイト「君がいろって言ったんじゃないか」

ナイン「それは言わないお約束です」

アルス「えっ、僕聞いてなかったんだけど」

ナイン「さて、ここにいらっしゃるエイトさんとサンドラさんにお話を伺ってみましょう」

サンドラ「話って……大したこと言えないわよ」

ナイン「大丈夫です。アルスさんが盛り上げてくれます」

アルス「そういう無茶ぶりやめてよー。それ僕の担当じゃないよ」

エイト「賑やかし組は今出てるからね」

ナイン「彼らには別の役割をお願いしました」

アルス「配役ミスじゃない?」

ナイン「いいのです。さて、お二人に質問です。洗濯はいつもどのようにやっているのでしょうか?」

エイト「それ君の方が絶対詳しいだろ。まあいいけど……この洗濯器でやってるよ。ナインが開発してくれたんだ。ざっくばらんに言うと魔法の力で汚れを洗い流してすすいで脱水してくれるよ」

サンドラ「これ、手洗いしなくていいから助かるわ」

ナイン「恐れ入ります」

エイト「でも干すのは手でだけどね。それでも十分助かってる」

ナイン「洗濯は誰がしているのでしょうか」

エイト「大体個人だね。たまに相談して誰かがまとめてやっちゃうこともあるよ」

サンドラ「男女は勿論分けてるわよ。下着はどっちも自分の部屋に干すことが多いわ」

アルス「レックはよくここに干すよ」

エイト「あいつは……まあ、別?」

サンドラ「男物のしたぎなら、たまにここに干されることもあるわ。ソフィアもノインも私も気にするような性格じゃないからどうだっていいけど」

アルス「たまに面白いの干してあるよね。変な絵がはいってるやつとか、文字入りのとか」

エイト「そうそう。前『鬼棍棒』っていうの見たことあったけど、あれスゴかったなあ」

アルス「……それ、アレンのだよ」

エイト「えっ、嘘だろ?」

アルス「ソロとレックが面白がってプレゼントしたんだよ。アレンは『いらねー使わねえ!』って言ってたんだけど、やっぱりプレゼントだからもらって使わないと悪いと思ったみたいで」

エイト「(感心したように)律儀だなあ……」

サンドラ「変なところがね」

ナイン「また質問してもいいですか?」

エイト「あっ勿論。ごめん話が逸れちゃって」

ナイン「乾いた洗濯物は誰かが取り込んでるのでしょうか?」

エイト「やっぱり干した個人だよね。でもたまに届けることもあるよ」

サンドラ「全員部屋は二階だから、届ける手間は大してないわ」

ナイン「部屋の話が出たので、宿の構造についても聞きましょうか。この宿の構造について話してください」

エイト「構造って……今言ったように二階は俺達の部屋があって、三階と四階は客室がそれぞれ十二ずつあるよ」

サンドラ「一階はラウンジ、食堂、厨房、娯楽室、倉庫、図書室があったわね。倉庫はどこか異次元にでも繋がってるんじゃないかってくらい、あった覚えのないものが湧いてくるのよね」

ナイン「『必要の部屋』と呼びましょう」

アルス「その名前聞いたことあるんだけど」

エイト「厠は各階にあるよね。すごい下水設備だよ」

ナイン「宿屋にとって衛生管理は命です」

アルス「君、たまにすごく宿屋の経営者側の視点発揮してくるよね」

ナイン「従業員ですから」

サンドラ「さて、こんな感じでいいのかしら?」

ナイン「はい、ありがとうございました」

エイト「続き頑張ってねー」

 

 

 

 

 

ナイン「さて、そのまま外にやって参りました。とりあえず近場の森に向かいましょう」

アルス「近場の森って言い方どうなの」

ナイン「するとなんと不思議! 木の上からソフィアさんが現れました!」

ソフィア「ハァイ! 待たせたわね!」

アルス(見事なターザンジャンプだったけど……いつからあそこで待機してたんだろう)

ソフィア「なによーシケてるなあ。もうちょっと盛り上がってよ」

 ナインは指笛を吹いた!

ソフィア「そうそう! その感じ!」

ナイン「光栄です」

アルス「待って、こんなところで指笛なんて吹いたら――」

 人面樹Aがあらわれた!

 人面樹Bがあらわれた!

 クックルーがあらわれた!

 ソフィアはさみだれけんを放った!

 魔物の群れをたおした!

ソフィア「あーびっくりした。一応剣持ってきといて良かった」

ナイン「忘れてました。指笛って魔物呼べるんでしたね」

アルス「もう、しっかりしてよぉ」

ナイン「すみません。ところでソフィアさん、ここで何をなさっていたのですか?」

ソフィア「ん? 見たまんまだけど」

アルス「(ソフィアの背中の籠を覗き込む)わっ! 果物がいっぱい! これ、全部この辺りで?」

ソフィア「これとこれはこの辺。こっちの底の方のはあっちの森で採ったの」

アルス「どうしよう、こんなにあって食べきれるかなぁ」

ソフィア「ジャムにしてもらおうよ。ジャムはエイトが得意じゃなかったっけ?」

ナイン「確かそうです」

ソフィア「そっか、あとでお願いしてみよ!」

アルス「うん」

ナイン「さて、じゃあソフィアさんにいくつかお伺いしましょう」

ソフィア「はーい、なあに?」

ナイン「この世界での食物のことです。僕たちが日々摂る食物は、どうやって手に入れているのでしょうか?」

ソフィア「うーん、簡単に言うと二つだよ。一つは現地調達。こうやって周りの森から果物や山菜、野菜を採ったり、狩りや釣りで獲物を獲ったり。魔物のみんなが育ててくれたのを分けてもらうこともある。アルスは魚捕るの上手いよね」

アルス「本業だからねぇ」

ソフィア「もう一つは持ち込み。みんな自分の世界からここに来る時に、差し入れ代わりというか自分の食料のためにも食べ物持ってくるの。日持ちする肉の加工品とか野菜の漬け物が多いけど、たまにとれたてほやほや持ってきてくれるよね。アルスとか」

アルス「漁の規格外で悪いけどね」

ナイン「いえ、それにしても助かります」

アルス「そう言ってもらえると嬉しいよ」

ナイン「さて、では次の質問です。どのようなものを食べているのでしょうか?」

ソフィア「色々だよね。自分の郷土料理作ってみたり、本当に色々」

アルス「味比べ大会面白いよねー」

ソフィア「そうそう、魔物達はトルネコから仕入れたレシピ本でいっつも上手に作るけど、人間は毎回作る人によって違うから面白くって!」

アルス「ベストスリーまとめてたよね? 誰が入ってたっけ?」

ソフィア「ふふふ……じゃあ発表してさしあげましょうっ!」

ナイン「お願いします」

ソフィア「三位! サタル作“ポルトガ風パエリア”!」

ナイン「あー、覚えています。海の幸がふんだんに使ってあって豪勢でしたよね」

アルス「香辛料の味も絶妙で、何がどのくらいの割合で入ってるのか全然分からなかったなあ」

ソフィア「そしてちょっと行っただけのポルトガで、誰に教えてもらったのかもさっぱり分からなかったよね」

一同「…………」

アルス「少なくとも今の恋人さんと付き合う前のことだったって信じたいなあ」

ソフィア「まっそれは置いといて! 第二位を発表したいと思いまーす! 第二位、エイト作“旅の途中にちょっと贅沢、炙り牛鳥とズッキーニャのグラタン”!」

アルス「えっあれ二位なの!? すっごく美味しかったのに……!」

ナイン「料理人への転職も修業もなしに、あそこまでズッキーニャのいわゆる“エグみ”を消せるとは驚きました」

アルス「昔厨房の手伝いをやってたとは言ってだけど……好きなんだろうね、料理」

ソフィア「剣より包丁の方が好きって言ってたしね」

アルス「あれは名言だよね。ギガスラッシュまでできる剣の達人なのに」

ソフィア「一時期流行ったよねー。レックが真似しすぎて殴られてたっけ」

ナイン「で、一位はいったいどなただったのです?」

ソフィア「(にやりと笑って)ソロの“母さん直伝・山奥のぐつぐつスープ”!」

アルス「そうだ、それだ!」

ナイン「あの料理は素晴らしかったですね。人間に不足しがちな栄養素を、一食分でたっぷり摂れていました」

ソフィア「あのソロが! ってみんなびっくりしてさ!」

アルス「うんうん、食べてみたらこれがこう……体に染み渡る感じで」

ナイン「アレフさんとアレンさんとレックさんは泣いてましたね」

アルス「うそ!? レックはともかくあの二人が!?」

ナイン「アレフさんは『母の記憶は既に遠くなって久しいが、これがきっとおふくろの味と言うものなんだな……』と号泣でした」

ソフィア「アレンは『な、泣いてなんかねえからな! 汗だ汗!』って言って――ぷぷっ」

アルス「うわー、見たかったなーそれ。僕食べたの二回目の時だったからなあ」

ソフィア「面白かったわよー。あのソロが予想外の反応に本気でびっくりしてたんだもの。アイツ他には知らねえって言ってたけど、絶対何か出てくると思うんだよねー。ふふふ」

ナイン「あれは是非今度、作っているところを拝見したいところです」

ソフィア「そういうナインは意外と味音痴よね」

アルス(わっ、わー! 言いづらいことあっさり言っちゃった!)

ナイン「確かにそうかもしれません。僕は皆さんと味覚が違うのかもしれない」

アルス(良かったーあっさりだった!)

ソフィア「ノインも料理すごいやばいし、天使ってそういうもんなの?」

ナイン「レシピ通り作るのは得意です。ですが、創作は人間好みの味をまだ掴めずにいます」

ソフィア「なるほどー。そういうもんなのね」

ナイン「皆さん、同じ料理でもレシピがないと味が違いますし」

ソフィア「うーんそうね。きっとナインだけじゃなくて、みんな味の感覚は違うもんなのよ」

ナイン「そういうものなのですか」

アルス「ところでナイン。むーびーの撮影はいいの?」

ナイン「……僕としたことが、本来の目的を忘れていました。ソフィアさん、ご協力ありがとうございました」

ソフィア「はいはーい。また後で料理トークしようね!」

 

 

 

 

 

アルス「ね、ねえナイン。そんなに落ち込まなくても」

ナイン「(眉間に皺を寄せて)落ち込んでなどおりません、深く反省しているのです」

アルス「そんなに自分を責めなくてもいいのに……(助けを求めるように周囲を見回して)あっ!」

レック「よっお前ら! 待ってたぜー!」

ナイン「レックさん。お待たせしてすみません」

レック「んー? 別に待ってねーよ。この辺ふらふらしてんの結構楽しくってさ。よし! じゃあこの世界の地理について、このレックさんが直々に話してあげましょー!」

アルス「レック大丈夫? 場所ちゃんと分かってる?」

レック「おうっ完璧だぜ! まずあっちが“帰らずの池”だろ? こっちが“太母の森”だろ? で向こうの“ぼんやりの林”を越えた先にあるのが“お先真っ暗の洞窟”で――」

アルス「待って待って待って全然分からないよ!」

レック「そうだろ、だから俺思うんだ」

アルス「何を?」

レック「(虚空を見上げて)世界の全貌は未だ未知数! 君達の目で、真実を確かめてくれ!」

ナイン「レックさん、目線こっちです」

レック「(反対方向を見上げて)世界の全貌は未だ未知数! 君達の目で、真実を確かめてくれ!」

アルス「そ、それでいいの?」

ナイン「いいのです。謎を持った方が関心を引けることもあります」

アルス「へ、へえ」

ナイン「いくつかある危険地区については後ほど編集で注意を入れます」

レック「じゃあ、良い子の皆が世界をまわるための手段を紹介しよう!」

アルス「そんな万人受けなものあったっけ?」

レック「その一! 自分の両足!」

アルス「いきなり無茶だよね」

レック「だってー」

アルス「魔法の絨毯があるでしょ?」

レック「あっそうだった!」

アルス「魔物のみんなに協力してもらう手もあるし」

レック「おう!」

アルス「ラーミアは……さすがに駄目だよね」

レック「機嫌がいい日は良いんじゃないかってサタルが言ってた」

アルス「本当かなあ――って何で僕が説明する側になってるの!?」

レック「さっすがアルスー! 頼りになるぜ!」

アルス「全くもー、すぐそうやっておだてて……。何か言ってやってよナイン」

ナイン「(真摯な面持ちで)アルスさん……」

アルス「なっなに?」

ナイン「今のがお笑い芸人の秘技・ノリツッコミというものなのですね?」

アルス「……ここ、ボケしかいないんだね」

 

 

 

 

 

アルス「ねえ、今度はどこに向かうの?」

ナイン「この世界で一番確かなルーラポイントですよ」

アルス「それって」

ナイン「ルーラ!」

アルス「(転移して目の前に現れた青白く輝く大樹を見上げる)羽根休めの世界樹だ」

ナイン「これが僕達の世界で重要なルーラポイントになっている、羽根休めの世界樹です。これがこの世界の中核だと言っても過言ではありません」

アルス「あっ……木の向こう見て」

ナイン「ラーミア様ですね。撮影のお願いはしましたが、まさか本当に待ってて下さるとは思わなかった」

アルス「お願いって? ラーミアに?」

ナイン「いいえ、サタルさんに」

アルス「……前から思ってたけど、サタルって何者なの?」

ナイン「ラーミア様のお一人が卵から孵る手助けをしたのだとお伺いしましたが」

アルス「それだけで、あんなにたくさんのラーミアと心を通じさせて、世界を自由に越えられるかなあ……」

ナイン「それは僕も疑問ですが、そもそもこのラーミア様のためにあったこの世界を、不死鳥の一族のお許しを得て僕達に紹介してくれたのは彼です。特別な星のもとに生まれていらっしゃるのでしょう。さて、これ以上お待たせするわけにはいきません。行きましょうか」

サタル「(寄せられた不死鳥の頭を優しく押し返して)ははっ、やめてくれよ。大人しくして。くすぐったいなあ」

ノイン「(大きな櫛を手にして)すみません、この部分のブラッシングが終わるまでもう少し待って下さい」

サタル「分かったよ」

ナイン「(目の前の光景を見ながら)前から思ってたんですけど、サタルさんてラーミア様限定ですごくナウシカですよね」

アルス「ナウシカってなに?」

ナイン「その昔、ある世界で大地の怒りをその身をもって鎮めたという青き衣の天女です」

アルス「すごいねその人」

ナイン「(上を仰いで)サタルさん」

サタル「あっ来たね? どこ向いて話せばいい? リップサービスはどのくらい?」

ナイン「通常運転で結構です。僕達と会話する様子でお願いします」

サタル「了解」

ナイン「さて、サタルさんとノインには世界を駆けることについてお聞きします」

サタル「はい、どうぞ」

ナイン「まず、世界を駆けることについてご説明願います」

サタル「いきなり難しいの来たなあ。まず、世界を駆けることは誰でもできるわけじゃないんだよ。最低でも神格を持つ者の許可がいる。俺達の場合、神に授けられたラーミアの力か神に授けられた天使の力でこうして世界を越えることが許されている。神々の許しがないと、俺達はこうしていることができないんだ」

ノイン「世界を越えられるのは任務を課せられる十二人のうち、ラーミア様と親しいサタルさんとサンドラさん、もと天使のナインと私、ノインの四人です。別の手段でも神々がお許になったら、それを使って世界を越えることも可能です」

アルス「ねえ、前から思ってたことを聞いてもいい?」

サタル「何だい?」

アルス「世界を越えるって言っても、越えた先の時間や場所をどうやって指定してるの?」

ノイン「簡単に言うならば、座標です」

アルス「座標?」

ノイン「ええ。点を目指すのです。いつもナインと私はこの背に戻った天使の翼に教えてもらっています」

ナイン「僕達の翼は普段目には見えませんが、世界を駆けることが許された者の目には時折見えることがあるようです」

アルス「それは僕も見たことあるよ。でも、点を目指すって……」

ノイン「私達は翼に導かれているだけですから。ですが、サタルさんは如何でしょう?」

サタル「俺は勘だよ」

アルス「勘でできるものなの?」

サタル「実際にできてるよ」

ナイン「サタルさんのそれも、何かも導きがあるのでしょうか?」

サタル「さあね。あるとしたらラーミアのじゃないかな」

アルス「……君達と話してると、自分が人間なんだなって心底思うよ」

サタル「俺も人間だよ?」

ナイン「僕も今は人間です」

ノイン「私も同じくです」

アルス「そうじゃなくて……まあいいや。ナイン、次は何を聞くの?」

ナイン「はい。世界を駆ける時はどんな時か、について話してください」

サタル「魂が引き寄せられる時」

アルス「そうじゃなくて」

ノイン「なさねばならない任務によって呼ばれた時です。私達は光の神々のお創りになった世界を守るという務めがあります。ですから、その務めを果たす時に世界を越えるのです」

サタル「俺達は恐れ多くも、麗しき裁きの女神の代行を仰せつかってるからね」

ナイン「恐れ多いことです」

アルス(その割に、どう見ても関係なさそうな雑用も来るけどね)

サタル「任務のために飛ぶ時は、その知らせが大抵俺達の誰かに直接来る。誰が世界を越えるかもその時指示される。行く面子は決められたり、決められなかったりだよ」

アルス「君たち、よくそれで……いや、何でもないよ」

 

 

 

 

 

アルス「何だか頭がこんがらがってるよ」

ナイン「そうですか。分かりやすいお話ができなくて申し訳ありません」

アルス「そんなに真面目に謝ってくれなくていいんだけど……ところで君はさっきから何を待ってるの? ここ、“お先真っ暗の洞窟”だよね?」

ナイン「ええ、今ここに任務のお二人がいるはずなのです」

アルス「任務中? 出口で待ってるだけでいいの?」

ナイン「はい。ここで待ち合わせを――いらっしゃいました」

 血みどろのアレフ、アレンがあらわれた!

アルス「えっ、二人とも大丈夫?」

アレフ「返り血だ。待たせて済まない。予想より長引いた」

ナイン「大丈夫です。こちらこそお忙しいところ申し訳ございません」

アルス(暗闇から血塗れの二人が立ってるの、軽くホラーなんだけど映像的に大丈夫かなあ)

アレン「任務の話だったな」

ナイン「ええ、そうです。任務のことについてお話ししていただけないでしょうか?」

アレン「すみません、アレフさん。俺こういうの……」

アレフ「俺も得意な方ではないが、話させてもらおう。任務というのは、我々が光の神々によって課せられたものだ。内容は様々で、今回のような魔物の討伐もあれば異世界にアイテムを入手しに行くだけのこともある」

ナイン「任務はどうやって伝達されますか?」

アレフ「俺達十二人の誰かに神々からお告げが来る。そのお告げを受けた人物が連れて行きたいメンバーを選んで世界を越えるんだ」

ナイン「メンバーはどのようにして決めているのでしょうか?」

アレフ「それは人によるだろう。だが基本は四人一組、フォーマンセルだ。それ以上でもそれ以下でも悪くはないが、絶対に避けなくてはいけないのは単独任務だ。一人だと危険が多いらしい。だから必ず誰か他に連れて行くようにと、俺は言われている」

アルス「メンバーのバランスはどうしてる? 目的次第?」

アレフ「そうだな。目的次第だろう。攻撃力が求められるようならば攻撃力の強いメンバーを連れて行く。難易度の高いダンジョンに挑むようならば、回復呪文と蘇生呪文を扱える人間が少なくとも二人は必要だ。呪文攻撃が得意な者、ダンジョン探索に長けた者もいた方がいいだろう。そういったことを総合して考え、メンバーを決めて呼んでいただく」

アレン「世界を越えられる人が最低一人いるようにっていうのも、よく言われるな。緊急脱出しなくちゃいけねえこともあるから」

アレフ「俺達十二人にも長所短所あるからな。よく仲間の力を理解して把握し、意思疎通を普段からするようにと言われている」

アルス「さっきから言われてるって言ってるけど、誰から?」

アレフ・アレン「サタルさんから」

アルス「君達、何やかんや言って先祖大好きだよね」

アレフ「当り前だ。俺は偉大なるロト・サタルさんに」

アレン「大好きってほどじゃ……いや、まあ、大先祖だから敬ってはいますよアレフさん。そっそんなに睨まないでください」

アレフ「睨んでなどいない。お前のは所謂つんでれだとサタルさんから聞いている」

アレン「後でぜってー殴る」

アルス「まあまあ。でも確かにサタルの言う通りだよ。任務の人選もアレンのツンデレも」

アレン「アルスおま」

ナイン「皆さんは僕達十二人の力を、どのように分析なさって選んでいるのですか? 収録中ではありますが、僕はそれがとても気になります」

アレフ「大したことは考えてないぞ。まず大きく戦士系、僧侶系、魔法使い系、賢者系、補助系でそれぞれの能力を考える。その中から目的達成に必要な能力を持ったメンバーを選んでいる。それから考える余裕があれば司令塔役、参謀役、リーダー、前衛、後衛も考慮する」

ナイン「なるほど。それは後ほど詳しくお伺いしたいですね」

アレフ「いいだろう。あとで俺の部屋に来い。そうしたら話そう」

 

 

 

 

 

ナイン「さあ……遂に最後です」

アルス「長かったような、短かったような」

ソロ「俺は随分長かったぞ。待つのがな」

ナイン「ソロさん、申し訳ないです」

ソロ「おめーはそういうとこ妙に素直で困るよ」

ナイン「はい?」

ソロ「何でもねえ。さ、話ってヤツを始めてくれ」

ナイン「承知しました。ソロさんには神についてお伺いします」

アルス(いきなりすごいこと言い出した……)

ソロ「はあ? 何で俺がそんなめんどくせーもん話さなきゃなんだよ。おめえの方がぜってー詳しいだろ」

ナイン「僕が話すと収まりがつかないのです。お願いします」

ソロ「……分かったよ。何話しゃあいいんだ?」

ナイン「ソロさんは神とはどのようなものだと思いますか?」

アルス「いや、宗教的すぎるでしょ」

ソロ「俺が思うにこの世の定理だ。で、概念だ」

アルス「!?」

ナイン「神はどこにおわすのでしょうか?」

ソロ「神霊界。または個人の頭ン中でもこの大気でもどこにでも」

ナイン「僕達は皆信仰する神が違うのに、どうして対立が起きず魔法が機能するのでしょうか?」

ソロ「対立はあるだろう。ただ、デカい仮想敵がいるから目立ってねえだけだ。妥協してるんだろうな。光も闇も」

アルス(いきなりチンピラ神父がいる教会に来たみたいになってきた……)

ナイン「そんな中で、この世界で僕達を守護する神はどのような方なのでしょう?」

ソロ「……思うに、神らしくねえ奴だ。俺達をこの役目に落ち着かせた裁きの女神の共犯者。罪が生じたところに罰がくるように、終わりのねえ関係性では絶対的な強さがある」

ナイン「……やはり、そう思われますか」

アルス「……あのさ」

ソロ「何だ」

アルス「二人とも何の話をしてるのかさっぱり分からないんだけど、これ他の人にも分かるかな?」

ソロナイン「…………」

ナイン「カットしましょう」

ソロ「そうしてくれ」

ナイン「代わりにと言っては何ですが神について一言お願いします」

ソロ「(わざとらしいまでの厳粛な面持ちで)神サマはいつも貴方のそばに」

 

 

 

 

 

ナイン「さて、この世界について分かりましたでしょうか?」

アルス「あんまり分かってない気がするよ」

ナイン「分からないことがありましたら、積極的にお近くの僕達まで聞いてくださいね!」

アルス「僕もなの?」

ナイン「ではまたお会いしましょう。さようなら」

アルス「ねえ! カット! 訂正してよ!」

 

 

 

 

 






 

 

20150126