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 この手紙を読んでいるということは……なんて出だししか思い浮かばなくて笑っちゃったよ。でもお前はきっと笑うどころじゃないだろう。

 危険に晒すことになって、本当にすまない。

 僕が決して失敗をしないように。そして僕の調査結果が消えて、この後また無限に同じことを繰り返させてなるものかという動機から、お前を後任にするよう手はずを整えて、山姥切にお願いしてしまった。僕の知る限りのことを遺す。これから書くことが役立つことを願っている。

 お前も知る通り、僕の霊視は記憶が見えるから、この藤の屋敷のことも視た。かなりの昔から存在していたようで、全ては視られなかったけど、視られた範囲からなるべく正確に分析をしたつもりだよ。

 この屋敷の正体は、周囲から忘れられ、自分自身すら忘れてしまった刀剣男士の集合体ということで間違いないはずだ。刀剣男士の思いを動力源とし、自分達を認識してくれる者を求め、養分とし、忘却の館として生き続けている。

 彼らの望みは審神者だ。生身を持つ審神者を欲している。だから生きた審神者が行って、彼らの御霊に本来の役割を思い出させてやればいい。

 問題は彼らと交渉する方法だ。かつてからいる刀剣達は最早あやふやな存在になってしまっていて、此方と交信する手段を覚えているかすら怪しい。だから、唯一自我を保っているだろう、石榴様のへし切長谷部と対話するのがいい。

 しかしこのへし切長谷部の魂がどういう状態にあるのか……これを視るのに僕も苦労した。この屋敷で朽ちていったあらゆる刀の回想は彼を媒介としているから、彼を視ようとするとそちらばかり視えてしまう。彼自身の記憶がなかなか視られなかった。少しだけ視えたのは彼の最初の主、石榴様だ。まだ若くて子供を抱いていた。

 日本号から聞いた話と合わせて考えるに、長谷部は主人親子の命を守れなかったことを悔やんでいるのかもしれない。その無念を晴らしてやれれば、解決に繋がると思う。長谷部は肉体と精神をこの屋敷に提供している。核と言っても過言じゃないから、彼の心が苦しみから解き放たれれば、屋敷も自然と解体されるはずだ。

 使われる為に生まれた者が、使う為に生んだ者に忘れられるのは辛いだろう。

 やられておいて偉そうなことを言えた立場じゃないが、審神者としてどうか導いてやって欲しい。

 お前と刀達の無事を祈る。