No.01 友達


「おー、美味そうだな」
「この里でも結構盛ってる団子屋のだからな」

 サクラが差し入れしてくれた団子はつやつやと光っていて美味しそうだった。私がじっとそれを見つめていると、視界の端にシカマルの口の端が吊り上がっているのが映った。

「……何を笑っているんだ」
「そりゃこっちの台詞だ。そんなに団子が好きなのか?」
「まぁ確かにそうだが……甘味は大体好きだぞ」
「へー意外だな」
「そうか?」
「いつもおっかねー顔してる砂の使者さんが、甘い物がお好きとはな……」
「何だと――」

 言い返そうとして私は止まった。私の口の前に団子が差し出されている。シカマルがにやりと笑った。

「ま、食えよ。あんたいつもおっかねー顔してるけど、もの食ってる時の顔は悪くねーぜ」
「……どういう意味だ」
「そのまんまの意味だ」

 わけが分からない。私は奴から串を受け取ると、一口食べた。程よい甘みとしょっぱさ、もちもちとした食感、全てのバランスがちょうど良い。

「美味いな」
「だろ?」


 


No.02 友達以上恋人未満


「った……」

 中忍試験の書類チェック中、テマリが呟いた。目をやると、眉間に皺を寄せて人差し指を口に含んでいた。

「どうした?」
「紙で指切った」

 なるほど、意外に紙ってのは鋭いから痛いんだよなぁ。オレは立ち上がった。

「待ってろ、絆創膏取ってくる」
「待て。そんなものがなくても大丈夫だ。こうして咥えていればじきに止まる」

 人差し指を咥えながらオレを見上げてくる。お、なかなか良いアングル。
 ……じゃねーよオレの馬鹿野郎! オレは額を押さえた。くそ、昼間からちょっとヤバいもん想像しちまったじゃねーか。

「いや、書類に血がついたらまずいだろ。持ってくるからそのままちょっと待ってろ」
「ああ、そうか……悪いな」

 いや、寧ろ悪いのはこっちだ。
 本当の理由はそのまま作業されたら集中できそうにないから……なんて、絶対に言えない。今は、まだ。

 



No.03 恋人(微裏注意)


 宿に帰る途中、雨が降ってきた。砂隠れでは滅多に雨なんて降らない。傘を差して足早に帰路につく人々の中、私は一人己が身体に滴が打ち付けてくる感覚を楽しんでいた。

「何してんすか。風邪引くぞ」

 不意に滴が遮られ、私の視界は傘の赤で埋め尽くされた。そのまま仰ぎ見ると、傘を差し出す仏頂面の中の黒い瞳とぶつかった。

「雨というものはなかなかに気持ち良いものだな」
「そうか? オレ達は慣れちまってるからあんまそうは思わねぇけど」
「砂隠れは暑いからな……冷たいものは気持ち良い」
「ふーん」

 シカマルは私をうながし、歩き出す。でも確かに濡れすぎたかもしれないな。少し寒くなってきた。傍にあるシカマルの温かさが逆に心地よくなってくる。
 しばらくしないうちに宿に着いた。帰ろうとするのを止め、寒いから茶を出すと言うとシカマルは何とも言い難い表情をしながらも上がってくれた。

「何か用事でもあるのか?」
「別に何もねーけどさ……オレ寒くねーよ」
「そうか? 私は寒いんだが」
「ほら見ろ、あんな雨に打たれてたからだ。風邪引くぞ」
「引かん」
「どこに根拠があって言ってんだか……ったく」

 部屋に入るなり、シカマルに抱き寄せられた。反射的に顔を見上げると、何も言わずに唇を重ねられる。優しく啄むような接吻も束の間のことで、すぐに舌が割り込んで来る。それが口内を這い回るのに気を取られている間に、私の着物は床に落ちていて男の無骨な手が私の身体を優しく撫で始めた。

「――っは……あ」
「寒いんだろ? 温めてやったぜ」

 己の薄い唇を舐めてシカマルが言う。世間で騒がれる美男達とは少し違った、華美ではないものの端正な顔立ちに浮かぶ表情はまだいつもと変わりない。だがその身体は、燃えているかのように熱かった。

「濡れた着物を着てると体力が奪われて余計寒くなるからな。脱がせてやった」
「何が脱がせてやった、だ」

 私は鼻を鳴らすと、離れようとするシカマルの首に腕を回して捕らえた。

「――まだ温まりきってないぞ。木ノ葉の忍は任務を中途半端に放棄するものなのか?」
「けっ……強欲な砂の使者さんの相手は楽じゃね―な」

 上等だ、と奴は囁いて再度唇を重ねた。次第に部屋の中の雰囲気が熱く、濃くなっていく。高まってくる熱の中で、息の荒くなったシカマルが問うた。

「なあ、雨に打たれんのとどっちが気持ちいい?」

  ――分かり切ったことを聞くな、この馬鹿が。


 

 

20121014 執筆、支部投稿

20150823 サイト収納