現パロ「山奥へ行こう!①」

 

「このーみちーわがーたびーフフフフフフフーン」

 俺は鼻歌交じりに空を見上げる。雲一つないって言ったらウソになるけど、青い空が八割方だから今日もいい天気だ。やっぱいいコトの前はこうでないとな!

 今日はヒーローズのみんなで――というか、言い出しは博士でそもそものメインは博士ンとこの会社らしいんだけど――温泉旅行に出かけるんだ。場所はどこだっけ、忘れた! けど山奥らしいからすっげーワクワクするぞ!

 集合場所は博士の会社の前。博士は皆が乗れる貸切バスを手配してくれたらしい。貸切バスって修学旅行以来だから、すごく楽しみだ!

 俺の鼻歌が落ち着いた住宅街に溶けていく。朝だからすごく静かだ。こうして見るとこの辺りはなかなか裕福そうな一戸建てが多い。当たり前だよな、都内でも憧れる奴の多い場所だもん。そんな場所に家を構える博士ってさすがだよな。

「レックー」

 おおっ? 誰かに呼ばれた。振り返ってみれば見覚えありまくりの銀髪と金髪のコンビがやってくる。

「アレンにアレフレッド! お前ら一緒に来たの?」

「博士の所と俺んちってちょっと離れてるから、わりと近いアレフ兄ちゃんのところに泊めてもらってたんだ」

 アレンが答える。普段は学ランなことが多いけど、今日は珍しく私服だ。そのせいか普段よりやや大人びて高校生の終わりくらいに見える。肩にかけてるのはデカいエナメルバッグで、いかにも部活やってる学生って感じだ。いやーいいね、若いね。

「レックは誰も他に連れて来なかったのか?」

 アレンの従兄でヒーローブラック代理会の一人、アレフレッドが俺に聞く。こっちは私服のはずなのにややトラッド風。まあコイツらしいと言えばそれらしい。

「そうなんだ。彼女も友達もあたったけど全日参加できるヤツいなくってさ。もしかしたら途中で二人来るかもしれねえけど」

「それは寂しいな」

「んー? 皆いるから寂しくはねえよ。あとあっちで新しい出会いがあるかもしれないだろ? そう考えると今からもう……な!?」

 俺が拳を握ってそちらを向くと、二人は何故かそろって笑った。アレンが少し口の端を持ち上げたまま、俺を見上げて口を開く。

「レックはセッキョクテキだよな」

「お前らこそ誰も呼ばなかったのか? 知り合い多そうじゃん」

「それなりにいるが、ふつうこういう機会に呼ぼうと思う相手は少ないものじゃないか?」

 俺は小首を傾げるが、アレフレッドは何故か溜め息を吐いてから顔を空に向けた。

「頑張って誘ったんだが、用があるからと言って来てもらえなかった……」

「そんなに来てほしい奴がいたのか」

 どことなく沈痛な面持ちをしているので思わず聞く。すると途端にアレンがこちらを向いて顔を思いっきり顰めたんだが、もう遅い。アレフレッドは待ってましたとばかりに顔を俺に戻して語り始めた。

「そうなんだ! 俺とアレンのはとこにあたる人でな、子供の頃からお世話になっていてとてもスマートな人なんだ! 笑顔が素敵でとても爽やかで格好良くてどれくらいかって言うと――」

 アレフレッドは両方の拳を握りしめて熱く語る、語る、語る! その様子にびっくりしちゃって、俺は唖然として前も見ずに語りっぷりを眺めてたんだが、そのうち長い回想語りになって「コイツ俺たちのこと見てねえ」って確信した頃、従兄の方を見もしないアレンにこっそり耳打ちした。

「なあ、そいつ女なの?」

「男だ」

 アレンはうんざりといった顔でちょっと従兄を見た。まだ語っている。

 言っとくけどホモじゃないぜと、彼は念を押す。それは知ってる。アレフレッドはこう見えて妻帯者だ。まあ、良い人と言えば良い人だから結婚できたんだろうが、この突っ走り癖を受け入れられるなんてどんな奥さんなんだろう。

「この人、気に入った人達にはわりと自分から絡みに行くけど、あの人への接し方に比べたらそのへんはまだ甘いもんなんだ」

「あ、甘いの? マジで?」

 俺はコイツが同じアレフに話しかけている時の情景を思い出す。今は一件落着したヒーローブラックへの積極的な参加についての話、本業の何やら小難しい仕事についての話、それとはまったく関係ないアレフについての話、どれを話している時を見ても、アレフがいつもの二倍嫌そうな顔をしていても粘り強く話していた。席を立ってもついて行って、一度怒られてたっけ。

 それよりもひどいってどんななんだろう。誰だか知らねえけど、そのはとこってかわいそうな人だな。そう俺が思った時、アレンがぼそりと呟いた。

「あの人はそれも面白がるような人だから何ともねえけど、毎度見てる俺の身にもなってほしいよ」

「へえ。アレン的に、その人ってどんな人?」

「基本的に人あたりいいけど、時と場合によってはすげー性格悪い」

 よく分からないが、この最年少ヒーローは年上の身内に悩まされて大変そうだ。俺は同情の気持ちを込めて、中学生の割に逞しい肩を叩いた。

「おっ、着いたぞ。バスももう待っている」

 何も聞いていなかったアレフレッドは、語りを中断して前方を指す。目的地が近づこうとしていた。

 

 

 

 

温泉に行きます。Ⅴの山奥の村モチーフです。

私のところからは一応この三人、あとは話題の人物のいる後述のあの団体を。ゾンビハンターの双子はお店のこともあるので様子見で。