狭いドーム状の地下というのもあって、耳がつん裂けそうだ。アレンは耳を塞ぎたいのを全力で堪えて音源へ向かう。着ぐるみなんじゃないかと疑ってしまうような巨大で愛嬌のあるモグラの怪人の手からは、しかし邪悪な旋律もとい騒音がかき鳴らされている。あんな小さいハープなのに、何でこんな心臓を尖った爪で毟られるような音を出せるんだろう。ここまでくるともう才能だ。
「裂けろ、ランドインパクト!」
凶悪なメロディに負けまいと声を振り絞ったイエローの、グローブに包まれた手が地面にめり込んだ。たちまち大きく裂け目が入り、大地が割れて亀裂が走る。隆起した地面に手下の小モグラ達が慌てふためく。小さい奴らは跳ねて飛んでとできる余裕があったが、重いとそうはいかない。モグラの大怪人は裂けた亀裂に見事嵌まり込んだ。
だがこれだけでは駄目だ。奴はモグラ、すぐ逃げられてしまう。
「ブルーッ!」
ノアがアレンを呼ぶ。二人は同時に駆け出し、大モグラが嵌まった亀裂の両サイドに飛び乗って地に両手をつける。
「溶けちまえ」
吐き捨てると、みるみるうちに大地の色合いが透明になりチョコのように溶け始めた。溶けた砂は急速な流れとなり大怪人を中心として渦潮を作る。
「いくぞ!」
「おう」
掛け声を合わせ、液体化した砂の渦を再び硬い大地へと作り上げる。アレンがやるのは流動するそれで怪人の身体を覆うこと。そこから先はノアとの合わせ技、先ほどよりずっと硬い鋼のような氷の牢を作り上げる。
「合体封印、アストロン!!」
大きな土と氷の達磨が出来上がった。達磨は少々暴れようとしたようだが、微かに震えたのみで大人しくなってしまった。しっかり硬く作れたらしい。
「親分~」
小モグラ達が達磨に駆け寄る。しかし助けることはしない。彼らの目の下には、浅黒い肌でもよく分かる隈ができていた。
ノアとアレンは彼らに歩み寄る。するとモグラ達は親分を庇うように立ちはだかった。ノアが首を横に振って彼らを宥める。
「ひぃぃ、勘弁してくださいィィ」
大モグラは情けない声を上げる。アレンは何だか彼が気の毒になってしまった。
「ドン・モグーラ。お前がいつも賑やかに演奏してるせいで地面の上の人たちが眠れないんだよ。もうちょっと静かにしてくれないかな」
ノアも同じように思うらしく、口調を和らげて大モグラを見上げた。モグラはどうにか動く目だけをきょどきょどと動かす。
「そんなこと言われても、これが楽しみで生きてるようなもんでして」
「防音設備つければいいじゃないか」
「予算ないです」
アレンはがくりと肩を落とした。まさか怪人の口からこんな現実的な用語を聞く日が来るなんて。
ノアは頭を抱えている。困ったように唸って文字通り頭を捻り、しばらくして迷いながらモグラ達に提案した。
「……知り合いに掛け合ったらどうにかしてくれるかも。アジト内を案内してくれないか?」
面倒見がいいなあと思いながら、アレンは喜んで早速アジトの奥へと消えていくモグラ達の背中に続いた。
「やーまいったまいった!」
事務所に戻ってきたレックは大きく伸びをした。久々にやって来た正規ブラックことアレフはさっさと黒いスーツを脱ぎ捨てる。ティアは彼らをしり目にポットを持って簡易キッチンへと消えた。
「せっかくカンダタ盗賊団とやっと決着付けられると思ったのになあ。警察が来たから逃げるなんて、小物にもほどがあるぜ」
「バカ、テメーのせいだろ」
安楽椅子に腰かけてぐらぐら揺れるレッドにアレフは容赦なく言う。
「お前が川原に火なんて放つから大騒ぎになってサツに消防に救急車にフル稼働で来たんだろうが。少しは手加減くらいできねえのか」
「手加減ー?」
レックは安楽椅子で揺れたまま、高い声で返す。
「アイツら相手に手加減したら逃げられるだろ」
「逃げられたじゃねえか」
「まだあれくらいの火力、序の口序の口ぃ」
「ふざけんなこのクソガキ。これだからおめえと組むのは嫌なんだ! いいか、戦いってのはめいっぱい突っ込めばいいってもんじゃ――」
「それだけじゃない」
アレフの言葉は中途に切れた。ティアが盆を手に戻って来たのだ。テーブルに盆を置き、ティーセットを並べる。それから電気ポットからティーポットに湯を注ぎ、立ちのぼる湯気を眺めながらまた口を開いた。
「警察が来たのは、そのせいだけじゃない」
「何だよ、他になんかやったか?」
「警察の人、何人か言ってた。穴が空いたって」
「穴ぁ?」
レックが振り子のように首を大きく傾ける。
「大変だッ!」
突然、扉が壁に叩きつけられた。黄色い閃光が飛び込んでくる。イエローことノアである。その後ろから青いアレンもやって来た。
思わずこちらを見た三人に、ノアは叫んだ。
「地下にっ! この町の地下に化け物が!!!」
ここから悪役との本格的な戦いと、新たなる戦闘のための新戦力参入、そして諸々が始まるわけですね! 諸々ってなんでしょうね! 私には分かりませんネタください!
新戦力のあの方はまだ性格を分かりきれていないので出せてません……すみません……。
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