脱出を目指して

 塔の中は変だった。どの辺が変かって、人形ばっかりなんだ。壁沿いには銅像、壁自体には剥製がついてるし、天井にはモンスターの模型が吊るされてる。道はグネグネクネクネしてて先が見えず、行く手を探ろうとすれば先に無機質な顔がこっちを見返して来る。おまけに窓が小さい上にほとんどないもんだから、たまにこちらの灯りを跳ね返した奴らの目が暗がりにギラッて光るんで心臓に悪い。

「わっひゃあああ! 死体ッ!」

「死体じゃねーよミイラの模型だろ」

 アレンがぶっきらぼうに俺の悲鳴に言葉を返す。ロトはよくできてるねえと心なしか嬉しそうにそれを目で追い、ノアは気味悪そうにミイラを見て、新顔の兄ちゃんは無表情なティアの手をさり気なく握る。先頭を行くアレフはこっちには見向きもせずどんどん先を進んでいく。

 何だよぉ。みんなリアクション小さくてつまんねえ。こういうところはみんなでぎゃあぎゃあ騒ぎながら行くのが普通だろ。バーバラもハッサンもアモスもみんな俺よりうるさくて楽しかったのに。

 足だけは一応動かしながら周りを見る。それにしてもよくできた人形たちだ。銅像にはストーンビーストや何て言ったっけな、忘れたけど頭しかない何とかヘッドって奴とか、そういうを真似た奴がたくさんいる。人形はメタルハンターとかサボテンボールとか、これが一番バリエーション豊かだ。頭上にはメランザーナやハナカワセミが漂っている。

 どれも本物そっくりだ。どうなってるんだろう。

ちらりと前を行くアレンを窺う。こっちには気付いていない。ちょっとだけ足を止めて足下に座ってるファーラットの手を握ってみる。わあ、もこもこ。あったかい。

 ……ん?

 俺が違和感を覚えて手を握りなおした刹那、円らな目がぱちくりと瞬きした。それに合わせたように、遠くで石の扉が閉まる重い音がした。

「やべえ! コイツら本物だッ!!」

 叫んで跳び退った途端、奴らも命を吹き込まれたように動き出した。暗闇に無数の瞳が浮かび上がる。

 俺は袋から手探りでラーの鏡を取り出して見る。周囲を囲むのは魔物、魔物、魔物――人形なんていやしねえ!

「ぼやぼやすんな!」

 アレンが剣を抜いて落ちて来たメランザーナを斬る。ティアが中級爆発呪、ライトが剣で辺りを払う。ロトは退路を探している。

「ダメ、他に道ないよ!」

「くそっ!」

 アレフが聖水を撒く。魔物達が怯んで、僅かだが視界が開けた。その隙をついて駆け出す。

「とにかく上だ、一番上を目指せ!」

 ノアの叫ぶ声。言われるまでもなく、俺達は上を目指してひた走った。

 

 

 

主人公共闘企画リレー小説、五巡目十四番目です。稲野さんから「聖水」頂きました。

五巡目まで来るとは……いやはやありがとうございます。

次は夏ミカンさんへ。回すアイテムは「ラーの鏡」です。